戻る

エノコログサを撮る 写真 深谷利彦 Toshihiko Fukaya
エノコログサ/イネ科 

  野草の撮影をしたことのある人なら一度はエノコログサの撮影をしたことがあるのではないでしょうか。その時どんな場面を撮影されましたか?またどんな場面を好んで撮影されていますか?雑誌や写真集などで見るエノコログサの写真のほとんどは逆光に輝くキンエノコロであることが多く、誰もがそんな写真を撮ってみたいと憧れもします。私もその一人で随分昔から撮影してきました。ところがなかなか思ったように撮影できなくて悩んできたことも事実です。イメージ的にはこんな風に撮れたらいいなと思っていても実際に撮影した写真にはイメージとは大きなギャップがありました。
 そんな私が敢えてエノコログサの撮影についてコメントしてみようと思ったのは、最近ようやく出会った場面とイメージした画像のギャップが少なくなってきたように思うからです。紹介する画像の枚数はそれほど多くありませんが、最近撮影した写真と少し前に撮影した写真にコメントを入れながら解説してみたいと思います。
 何度もこの撮影シリーズではお断りしていますが、これはあくまでも私の個人的見解で教科書ではありません。そもそも写真には正解がありませんので、参考程度に受け止めていただけたらと思います。


撮影地 白馬村 2016/09/09 15:30撮影 Canon5DⅡ Canon EF70-200㎜ F4 f5.6 絞り優先モード オート ISO200 露出補正-1/3 焦点距離173㎜

今回から撮影時刻も入れるようにしましたのでどんな時間帯の撮影なのかお分かりいただけると思います。

さて最初の写真はエノコログサは一つしか写っていません。
その周りにはまばらに生えるイヌタデが写っています。
この場面を撮影してみようと思った意図は、たった一つだけのエノコログサであってもイヌタデとセットで写すことで
秋を感じる情景になるかなと思ったからです。
華やかな情景でなくてもちょっとした場面を切り取ると、
実際に目にしている光景以上に趣の感じられる写真となります。
撮影時刻は午後3時半、うす曇りで日は出ていませんでした。
それでも逆光気味に被写体を見るとエノコログサは輝きます。もちろん曇天では輝きませんが。
野草の写真で大きなポイントとなるのは光をどうとらえるかということではないでしょうか。
この時注意したのはピントをエノコログサの穂先に合わせることと、
少ないイヌタデにも一部でいいからピントを合わせることでした。
撮影する時にはエノコログサの上にあるイヌタデの先にもピントが合うようにしましたが、
結果的に右下のイヌタデにもピントが合っていました。
ちょっとしたことですがイヌタデのどこにもピントが合っていないと、
少し散漫な写真になったような気がします。
雄大な景色をパンフォーカスで撮影する場合はそのままズバリの写真になりますが、
こんな風に切り取りをして背景をぼかす写真は想像を駆り立てる写真になるといいなと思っています。



撮影地 白馬村 2016/09/09 15:50撮影 Canon5DⅡ Canon EF70-200㎜ F4 f5.6 絞り優先モード オート ISO200 露出補正-2/3 焦点距離70㎜

これは一枚目の写真を撮影した場所の近くになります。
日が差していないのでエノコログサにメリハリがありませんが、
道端に生えるエノコログサと田舎の様子を感じられる写真にと思って撮影しました。
特に大きな特徴があるわけではありませんが、田舎の静かな様子と秋めいてきた空気を感じ取っていただければと思います。
この写真のポイントはキンエノコロ。
わずかにしか生えていませんが程よいアクセントとなっているように思います。
実際にこの場面はキンエノコロがなければ撮影しなかったと思われます。
ただキンエノコロにピントが合っていないことが残念です。



撮影地 白馬村 2016/09/10 6:20撮影 NikonD810 NIKKOR VR16-35㎜ F4 f5.6 絞り優先モード オート ISO200 露出補正+0.3 焦点距離22㎜

この写真の主役はエノコログサではありません。
主役は右に写っているヒメジョオンですが、エノコログサが脇役として活躍しています。
朝の弾けるような躍動感が伝わる写真になったのではないでしょうか。
やっぱりエノコログサは逆光で躍らせると面白い写真になるという見本かもしれません。
太陽は右にありますが光が強いのでハレーションを起こさないように画面から外して撮影しています。
広角レンズでの撮影なので背景に写る山やエノコログサのバランスなども考慮して撮影しました。
特に左側に突き出た二つのエノコログサは構図的に意識しています。
青空もなくてはならない要素となりました。



撮影地 碧南市 2016/08/31 6:50撮影 Canon5DⅡ Canon EF70-200㎜ F4 f5.6 絞り優先モード オート ISO200 露出補正-2/3 焦点距離123㎜

自宅近くを早朝散歩しながら撮影した一枚です。
ちょうど稲刈りが始まって田んぼには藁のオブジェが見られるようになりました。
エノコログサとしては寂しい佇まいですが、背景に田んぼを入れることによって
季節感のある写真になったと思います。
こんな場合は背景をどの程度ぼかすかということになります。
望遠系ズームレンズを使っての撮影なのであまり意識しなくてもそれなりにボケてくれますが、
モニターを見ながら自分の好みのボケを見つけるといいかもしれません。
但し主役をエノコログサにした場合、小さなエノコログサを浮き出たせるためにもあまり絞り込まない方がいいでしょう。




撮影地 白馬村 2016/09/09 15:13撮影 Canon5DⅡ Canon EF70-200㎜ F4 f5.6 絞り優先モード オート ISO200 露出補正-1/3 焦点距離121㎜

これは弱い光が当たっているキンエノコロですが、結構輝きます。
逆光に輝くキンエノコロの撮影で注意したいのは、マクロレンズで接写をする場合、
通常花の撮影では絞りf5.6あたりで撮影することが多いのですが、
f5.6位だとピントの合う範囲が狭くぼやっとした写真になることが多くなります。
綺麗に横並びしていたり背景が綺麗に抜けるような場面ではf5.6でもいいのですが、
密生している場面を部分的に切り取る場合は絞りをf8やf11まで絞り込んだ方がきりっとした写真になります。
最近望遠系で撮影することが多いのは、この点の問題を解消してくれるからなんですね。
望遠レンズでは画面が圧縮されるために背景がボケながらある程度ピントも深く合わせてくれます。



撮影地 白馬村 2016/09/09 15:16撮影 Canon5DⅡ Canon EF70-200㎜ F4 f5.6 絞り優先モード オート ISO200 露出補正-1/3 焦点距離144㎜

もう少し望遠で撮影した一枚です。
本当はもっとクローズアップして、キンエノコロの輝く表情を鮮明に写しとめた写真も撮影したかったのですが、
いい場面を見つけることができませんでした。
その時はマクロレンズで撮影したかったのですが。
私は被写体のどんな表情を撮影するかによってレンズを替えるようにしています。



撮影地 白馬村 2016/09/10 6:24撮影 Canon5DⅡ Canon EF70-200㎜ F4 f5.6 絞り優先モード オート ISO200 露出補正-2/3 焦点距離135㎜

これは陽が昇って間もない頃の撮影です。
空き地に群生するキンエノコロと畔に生えるエノコログサが朝日に照らされて踊っていました。
このような情景は朝ならではですね。
この場面もキンエノコロだけでは面白くありません。
周りの様子を見せることによって生えている環境や時間帯、空気感などが見えるようになります。
どこをどう切り取るかは個人差があると思いますが、
奥行きが感じられる写真がいいのではと思っています。



撮影地 奥三河 2016/09/01 8:26撮影 Canon5DⅡ Canon EF70-200㎜ F4 f5.6 絞り優先モード オート ISO200 露出補正-1 2/3 焦点距離135㎜

こちらは車を運転しながら目に入ってきたキンエノコロが綺麗だったので車を止めて撮影したものです。
野草の撮影をする場合、お目当ての花があれば、特定の場所を目指して出かけますが、
エノコログサだけを目的にわざわざ出かけるということはあまりありません。
やはりエノコログサの撮影は偶然の出会いが圧倒的に多いということでしょう。
それでもいい写真を撮りたいと思うし、うまく撮れなければ次こそはと期待に胸をふくらますこともあります。
でも出会いが偶然なのでなかなか思うようにならないわけです。
でもそれでいいじゃないですか。
自然との巡り合わせは自然の成り行きに任せればいい。
そんな風に思っています。
むしろその方がいい出会いがあるような気がしています。
この写真はヒメジョオンが手前にあってキンエノコロを邪魔していますが、
これはこれでいいと思っています。
このヒメジョオンを左によけて撮るとそれなりにバランスのいい写真になるように思いますが、
これがあるがままの姿なんですね。
その中で自分が美しさを感じ、引き出せばいいと思っています。
植物写真では周りを整理してゴミのないようにして撮影される方も多く見受けられますが、
綺麗に整えて撮影しましたという写真になって面白味がありません。
脇役や雑味も一緒に写すとその味がブレンドされていい味になると思うのですが。




さてここからの写真は少し古い写真になります。
あえて撮影データは記しませんが、朝露に濡れるエノコログサも秋の格好の被写体になることをお伝えできればと思います。
撮影は11月初めの早朝、太陽が昇り初めて陽が差し込んできたばかりの時間帯の撮影です。
こんなに美しい情景があるのかと思うほど感動します。
早起きは三文の徳の野草バージョンです。
この撮影は90㎜のマクロレンズで撮影しました。




このように群生している様子を写すには広角レンズを使用することが多いのですが、
これは50㎜で撮影しています。
切り取りたい範囲が50㎜の画角に合ったからでしょう。
影があることによって太陽の方角や遠近感もより一層出てきたように思います。




群生する中から中央だけにピントを合わせて前後をぼかした写真です。
絞り込んで手前から奥までピントを合わせるのもスカッとした写真で好きですが、
こんな風にエノコログサの表情を見せながら奥や手前の様子を想像させるのも
撮影の一つのテクニックになります。


エノコログサのいろんな場面の写真を紹介してきましたが、身近な野草なだけに
案外難しい被写体かもしれません。
特別な野草ならそれなりの思い入れもあって、撮影意欲も大きくなりますが、
エノコログサのようにどこにでも生えていていつも目にしている野草は、
ともすると目に入らない見えない野草になってしまいます。
そんな身近な野草も美しく輝き命を繋いでいることを知り
素直な視線で接していくと、知識や概念が消え、想像を超える美しい姿を見せてくれます。


撮影シリーズに関して何かコメントを頂けると嬉しく思います。

深谷


inserted by FC2 system