戻る

長野のセツブンソウを撮る 写真 深谷利彦 Toshihiko Fukaya
セツブンソウ/キンポウゲ科 


 長野県の千曲市に自生するセツブンソウを撮影してきました。2ヶ所見てきましたが、どちらもピークを過ぎていて少し残念でした。恐らく3日前当たりがよかったのかなと思いましたが、出会いは一期一会ですので、気持ちを切り替えて、いま目の前に展開するセツブンソウを私なりの視点で撮影してきました。
 撮影のノウハウと言うほどの大げさなものではありませんが、どんなことを感じどんなことを思いながら撮影したかを綴ってみたいと思います。ただ撮影には正解がありませんので、あくまでも私の撮影に対する思いであることを踏まえてご覧いただければと思います。
 今回使用したカメラはNikonD810でレンズはNIKKOR16-35㎜ F4とTAMRON SP90㎜マクロ F2.8の2本です。レンズの特性と被写体との距離などを考慮しながら撮影しています。



撮影地 千曲市 2015/03/23撮影 NikonD810 NIKKOR16-35㎜ F4 f13 絞り優先モード マニュアル ISO200 焦点距離24㎜

花の撮影をする時、私が一番大切にしていることは感動です。
花を見て何に感動したか、その感動した場面をまず切り取ってみるというのが最初の一枚になります。
ここのセツブンソウの場合は斜面に群生していることに感動しました。
花が少し傷んでいて残念だなあという思いは捨てます(と言いながらちょっと残念と思ってます)。
私が普段観察しているセツブンソウはこんな斜面には咲きません。どちらかと言えば平らな地面に咲くものがほとんどです。
そんな訳でこのように斜面に咲く景観が素晴らしいと思いました。
もし最初に感動したものが花付きのいい綺麗なセツブンソウであれば、その花を撮影するでしょう。
つまり最初の感動を大切にしているということです。
感動こそがいい写真に繋がるといつも思っています。
感動の無い撮影からは人を感動させる写真は絶対に撮れません。
写真には自分の思いが写し込まれるものなんです。
だから人の真似では感動が伝わらないんですね。
逆に言えば少々まずくても感動が伝わってくる写真はいくらでもあります。
テクニックは二の次でまずは感動すること。感動は理屈ではないので感動しましょうと言っても無理なんですが、
感動した場面があったら、まずその場面を素直に感じたままに撮影してみるというのが野草の写真の基本だと思います。

さて次は少々テクニック的な話を。
群生風景を撮影するには広角レンズで撮影するのが一般的です。
群生の様子を見た感じに撮影するには絞りを絞り込んだ方がいいでしょう。
私はそんな場合f11~f16当たりで撮影しています。
絞り込めばシャッタースピードが遅くなるのでブレに注意が必要になります。
三脚を立てて撮影することが本来は基本ですが、花の撮影の場合三脚の足によって植物を傷めてしまうこともあります。
広角レンズで群生風景を撮影する場合は被写体に近づく必要があります。
そうなるとどうしても他の花を傷つけてしまいかねません。
特に咲き始めのような場合はこれから出てくる芽を踏み潰してしまうこともありますから注意が必要です。
そんな訳で今回は手持ち撮影しています。
群生風景の絞りに関してはあえて開放気味で撮影して前後をぼかすという手もありますが
私は絞り込んで撮影することが多いようです。

切り取る場所は感動した場面を素直に切り取ればいいのですが、
ポイントとしては手前に花が密に咲いているところを持ってくるようにするといいでしょう。
できれば画面の手前1/3当たりに密に咲いているところを持ってきて
ピントもその場所に合わせるとそれらしい写真になります。
上の写真の場合は右から1/3当たりに密度の濃いところを持ってきています。
それから群生風景は奥行き感を出すことが大切ですので、
セツブンソウだけではなく周りの状況がわかるものを取り入れるといいでしょう。
この場合は奥の林を少し入れました。
ただ入れすぎるとセツブンソウの印象が薄れてしまうので、少しにするといいと思っています。




撮影地 千曲市 2015/03/23撮影 NikonD810 NIKKOR16-35㎜ F4 f11 絞り優先モード マニュアル ISO200 焦点距離26㎜

こちらは縦位置で撮影した群生風景ですが失敗作です。
どこが失敗したかと言うとピントの位置が私の思いと違うところに行ってます。
ちょうど中央の花にピントがありますが、本来ならその下の花に合わせるべきでした。
それから1枚目より花に接近していますので、本来ならもう少し絞り込んだ方がよかったと思います。
だめですね。
撮影した時はちゃんと撮ったつもりでもあちゃ~と言うこともしょっちゅうです。
モニターで確認しても気づかないことが多いようです。
そろそろ裸眼での撮影に限界があるような気もしてきました。
撮影の意図としては1枚目と同じです。




撮影地 千曲市 2015/03/23撮影 NikonD810 NIKKOR16-35㎜ F4 f5.6 絞り優先モード マニュアル ISO200 焦点距離28㎜

これは同じ広角レンズですが少しズームして焦点距離28㎜で撮影しています。
もう少し花を大きく写して撮影することも可能ですが、その分背景に入ってくる画面が狭くなってくるので
この時はこんなもんかなと思って撮影しています。
ファインダーを覗きながらまあ適当に撮影しているという訳でして。
この写真も自分では手前の2輪にピントを合わせたつもりですが、左の方がピンがずれています。
だめですね。
下のマクロレンズでの撮影でもコメントしますが花のピントは最低2ヶ所、できれば3ヶ所あると締まった画面になります。
この写真の意図はピントを合わせたセツブンソウから奥行や周りの情景を想像してもらうというものです。
パンフォーカス(全体にピントが来る)に撮る方法もあるし、
こんな風な撮り方もあります。




撮影地 千曲市 2015/03/23撮影 NikonD810 NIKKOR16-35㎜ F4 f5.6 絞り優先モード オートフォーカス ISO400 焦点距離16㎜

ここからは2ヶ所目のセツブンソウになりますす。
こちらの方が少し綺麗な花が残っていました。
1ヶ所目と同じように斜面に咲いていましたが、斜面に咲いていることの感動はもうありません。
こちらの方を先に訪れていると斜面に咲いていることの感動から、
撮り方も違っていたように思います。
ここが面白いところなんですね。
最初に綺麗な花を見て感動すると、次に出会ったまあまあの花には感動が少ないですよね。
最初にまあまあの花に感動して、次に絶品に出会って感動してというパターンの方が幸せが多くていいのですが、
その時々の状況によって見方や感じ方も変わってくるものです。

さてここでは広角ズームレンズの焦点距離の違いによる画角の違いを見ていただけたらと思います。
使用した広角レンズは16-35㎜です。
一般的な広角レンズは24㎜や28㎜で、
それ以下のものは超広角レンズとも言われています。
ですから16㎜の画角というのは人間の目で見たものとはかなり違いがありますが、
そこが面白さでもあるわけです。
この写真が焦点距離16㎜で撮影したものです。
かなりデフォルメされていますね。
林が湾曲しています。
それでも広い範囲を写し込めることによって、セツブンソウの躍動感や広がりを強く感られるのではないでしょうか。
カメラはアングルファインダーをセットして地面に付けて撮影しています。



撮影地 千曲市 2015/03/23撮影 NikonD810 NIKKOR16-35㎜ F4 f4 絞り優先モード オートフォーカス ISO400 焦点距離35㎜

こちらは上の写真と同じ場面を焦点距離35㎜での撮影です。
随分印象が変わりますね。
セツブンソウの咲く様子と背景の林の情景が自然な感じで感じられるのではないでしょうか。
決してマクロレンズではないのですが、セツブンソウ位の大きさならこんな感じで撮影できます。
花だけの撮影ならマクロレンズの方が描写がいいのですが、
環境を取り込んで撮影するには広角レンズの方が向いていると言えます。
ここで覚えておくといいのが、レンズには最短撮影距離と最大撮影倍率というのがあるので、
花などの小さなものを接写したい場合は、
最短撮影距離の短いもの、最大撮影倍率の大きいものほど有利と言うことです。
ちなみにこのレンズの最短撮影距離は28㎝で最大撮影倍率は1/4倍となっています。
マクロレンズになると等倍(1/1)撮影ができるものがほとんどです。
広角レンズで1/2倍くらいのものがあると理想なんですが。

そこで下の写真が同じ焦点距離35㎜で撮影したものですが、被写体に最も接近し
最大の倍率で撮影したものです。




撮影地 千曲市 2015/03/23撮影 NikonD810 NIKKOR16-35㎜ F4 f5.6 絞り優先モード オートフォーカス ISO400 焦点距離35㎜

同じ焦点距離35㎜でも被写体との距離によってこれだけの違いが生まれます。
このレンズはマクロレンズのようないい写りをしてくれるので気に入っています。
ボケ味もいい感じではないかなと思います。

一つのレンズでもこんな風にいろんな使い分けができるのがいいですね。
被写体を前にしてどのように撮影してみようか想像を巡らしてみるのも楽しいことです。



さて最後はマクロレンズでの撮影です。
今回使用したマクロレンズはTAMRON SP90㎜ F2.8 272ENⅡ、
最新の手ぶれ補正の付いたものではありませんが、お気に入りのレンズの一つです。



撮影地 千曲市 2015/03/23撮影 NikonD810 TAMRON SP90㎜ F2.8 f5.6 絞り優先モード マニュアル ISO400

マクロレンズで撮影する場合は、まずマクロ撮影に耐えられる被写体であること。
花の撮影なのでやっぱり綺麗な花の方がいいですよね。
このセツブンソウは国旗のように二つが交差するように咲いていました。
ちょうど柔らかい光が差し込んできたので、いいぞいいぞと思って撮影しました。
花の位置と目線が同じ位置になる真横からの撮影です。
背景がすっきり抜けるしマクロレンズのボケ味を楽しむにはこんな感じがいいと思います。
花は花だけの存在ではなく、葉があり茎がありその周辺には他の植物もあります。
全体で一つの宇宙が作られています。
命の営みがそこにはあります。
そんな状況を写し留めることができるといいなといつも思っています。




撮影地 千曲市 2015/03/23撮影 NikonD810 TAMRON SP90㎜ F2.8 f5.6 絞り優先モード マニュアル ISO400

セツブンソウの写真となるとどうしても正面から撮影したくなるものです。
でも視線を変えて後ろから見たり横から見てみると、また違った表情も見えてきます。
撮影するにあたって二つのセツブンソウの雄しべにピントがくるように撮影しました。
目が悪くてピントが合わない上に風に揺れるので苦労しました。
何枚も撮影しましたが雄しべが見えていないものは締まらない写真でした。
花の撮影で一般的な基本は雄しべにピントを合わせることと言われるのは納得できます。




撮影地 千曲市 2015/03/23撮影 NikonD810 TAMRON SP90㎜ F2.8 f5.6 絞り優先モード マニュアル ISO400

天に向かって伸びるセツブンソウのハツラツとした元気な姿です。
花より少し目線を下げるくらいの方がそんな感じが出せるように思います。

どんな花でもそうですが、いい花を見つけることで撮影の半分は成功したと言えるかもしれません。
いい花とはもちろん綺麗な花ですが、いい場面というのもあります。
自分のこだわりを捨てて自然体で見てみると、今までとは違ったものが見えてくることもあるし、
思わぬ発見もあったりします。
野草と接する時はいつも謙虚でありたいと思っています。


深谷


inserted by FC2 system