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スミレの散歩道 2017年 写真 深谷利彦 Toshihiko Fukaya
生態系を捉えた撮影をしたいケイリュウタチツボスミレ 撮影場所 稲武 撮影日 2017/04/21

ケイリュウタチツボスミレのそれらしい写真を撮りたくて
再度出かけてきました。
この日はスミレの撮影を目的にあちこちを回りましたが
一日で11種のスミレを見ることができました。
その中からケイリュウタチツボスミレの紹介になりますが、
今回は撮影シリーズ風に撮影のポイントを絡めてお話してみたいと思います。
そもそもケイリュウタチツボスミレは渓流に咲くスミレ。
しかもかなり水際に咲くという変わり者。
少し川から遠ざかると全く見られなくなってしまうという
面白いスミレです。
そんなケイリュウタチツボスミレを撮影するにあたっては
その様子がわかる写真を撮りたいものです。
一般的にスミレの写真は、マクロ撮影で花の表情を撮影することが多いのですが、
(もちろん環境を入れて撮影をすることも多いことはわかってますよ)
ケイリュウタチツボスミレだけは渓流に咲いていることがわかる
写真を意識的に撮りたくなります。
それではどんな風に撮影したらいいのでしょう?
今回撮影した写真を見ながらお話してみたいと思います。



2017/4/21 稲武 NikonD810 NIKKOR VR16-35㎜ F4 f8 絞り優先モード 露出補正-0.3 シャッタースピード1/80秒 焦点距離20㎜
苔むした岩に咲いています。
ロケーション的には最高ですね。
この時、花と川の様子をどのように配置するかが最大のポイントとなります。
花が小さすぎても印象に欠けるし、渓流ばかりが目立っても花の印象が薄れてしまいます。
いろいろと構図を確認してみて、自分で気持ちのいいところがベストなのですが、
そんな説明ではわかりにくいですよね。
でもなかなか説明しにくいところです。
あくまでも主役はケイリュウタチツボスミレであることを意識した撮影で、
しかもポイントとなる花が存在することが大切です。
この場面の場合、花はそれなりに咲いていますが、正面を向いている花は一つだけです。
そうすると主役は自ずと決まってしまいます。
後はその花にピントを合わせて背後に渓流の様子を取り込むことになります。
この時、渓流はボカしておいた方がいいですね。
絞り込んで流れの様子がクリアーに写る撮り方もありますが、
花へのインパクトがどうしても薄らいでしまいます。
絞りf8で撮影していますがf5.6では水の流れが白くぼやけすぎてしまいます。
f11だと少しうるさくなったでしょう。
これも自分のレンズと被写体との距離によってボケ具合が変わりますので
自分で試しながらお気に入りのボケを見つけておくといいですね。



2017/4/21 稲武 NikonD810 NIKKOR VR16-35㎜ F4 f8 絞り優先モード 露出補正 -0.3 シャッタースピード 1/50秒 焦点距離16㎜
この場面はたった1輪の花しか咲いていません。
それでも敢えて撮影したくなったのは、シチュエーションの良さでしょうか。
岩の隙間に根を下ろして前のめりになるように咲いています。
それでも花は生き生きしています。
ひょっとしたら何日か前に水を被って花茎が倒されてしまったのかもしれません。
あるいは風で倒れたのでしょうか。
こんな姿はケイリュウタチツボスミレならではですね。
そしてたった一輪というのが構成的にもいいんですね。
2輪や3輪咲いているとかなり印象が変わってしまいます。
それから撮影する時に水の流れを意識したのですが、
右端に少し高低差があって流れ落ちる様子が写るように何枚か撮影しました。
光の反射で全体的に白っぽくなったり、こんな風に陰影ができて流れの様子がわかる時もありました。
些細なことかもしれませんが、大事な要素だと思っています。




2017/4/21 稲武 NikonD810 NIKKOR VR16-35㎜ F4 f8 絞り優先モード 露出補正 -0.3 シャッタースピード 1/50秒 焦点距離16㎜
1枚目とロケーション的にはよく似ていますが、
こちらの方が川の中にある苔むした岩がゴロゴロしていて面白いですね。
そのために1枚目より川の様子がわかるように撮影しました。
同じ絞りf8で撮影していても焦点距離が16㎜なので被写界深度が少し深くなります。



2017/4/21 稲武 Canon5DⅡ Canon EF70-200㎜ F4 f5.6 絞り優先モード 露出補正 -2/3 シャッタースピード 1/100秒 焦点距離150㎜
これもケイリュウタチツボスミレらしい姿ですね。
咲いている環境をそのまま見せるために切り取った写真です。
花のディティールはぼやっとしていてイマイチですが、
苔むした岩の隙間というか、亀裂の入った岩の隙間に根づいたものです。
長い年月を感じさせ、こんなところで花を咲かせるケイリュウタチツボスミレの
生きざまが見えてきます。
こういう場面は望遠系のレンズが生きてきます。
画像が圧縮されるので岩と花との一体感が生まれます。



2017/4/21 稲武 NikonD810 SIGMA 50㎜マクロ F2.8
これはマクロレンズで普通に撮影したものですが、
この写真だけを見るとどこか苔むした岩の絶壁に咲いているのかなという想像にとどまります。
このスミレがケイリュウタチツボスミレであると分る人は
それなりに想像が膨らんできますが、
知らない人は苔むしたこんなところに咲いていたんだという感想くらいでしょう。
これでも特徴を捉えた写真と言えなくもないのですが、
渓流の様子のわかる写真と比べるとインパクトがありません。
これが言いたくてここまで綴ってきました。
花の綺麗な様子や苔むした場所に咲く様子としてはこれはこれでいいのですが、
ケイリュウタチツボスミレとしては物足りないということになります。



2017/4/21 稲武 NikonD810 SIGMA 50㎜マクロ F2.8
最後はアップの写真です。
これはケイリュウタチツボスミレの花を見せる写真で、
撮影の中で必ず押さえておかなければならない写真になります。
咲く環境がどうのこうのということではなく、花や葉の様子のわかる写真ですね。
これはおまけの写真ということで。

植物写真はその特徴や個性を捉えた写真が要求されます。
図鑑的な写真ならクローズアップしたり、その特徴がわかる写真を撮ればいいのですが、
生き生きとした表情や生きざまを撮るには
その植物のことを知る必要もあるし、何よりも好きになることが一番のポイントのように思います。
理屈ではなく、感覚的に感情的に好きになること。
そうすると様々な表情を見せてくれるようになります。
見えてくるようになると言った方がいいかもしれません。

ケイリュウタチツボスミレから見えてくる生き様や表情から
学ぶことも多いような気がします。
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